1999年8月に住民基本台帳法の一部改正が成立し、この8月からスタートいたします新システム住民基本台帳ネットワーク、略称住基ネットでありますが、日本に住んでいて住民登録をしている日本人全員にほかの人と重複しない11桁の住民票コードを割り当て、この番号と住民基本台帳に記載された個人情報を全国の都道府県や市区町村を結んだコンピューターネットワークに流通させ、全国どこでも本人確認ができる仕組みなるということはご承知のとおりであり、8月からは、私たちは11桁の数字で管理されるということになる予定であります。
これはだれがどのように運用するかといいますと、市区町村と総務省の外郭団体である財団法人地方自治情報センターであり、市区町村で集めた本人確認情報は、市区町村から都道府県や他の市区町村へ提供され、都道府県は、国の機関や他の都道府県や市区町村へ情報を提供されるということであります。住民基本台帳法では、この都道府県の仕事を地方自治センターが肩がわりすることを予定しており、このセンターは、政府の国民総背番号制度導入の検討が進んできた1970年に設立され、総務省、旧自治省でありますが、そこと一体となって国民共通番号制を準備してきた経緯があり、理事長は自治省OBで、国とは別の民間団体が中心になっているという国の説明は形式的には当てはまりますが、実態は、国が深くかかわっていると言えそうであります。
では、住民基本台帳ネットワークで何ができるかということでありますが、政府の説明によりますと、1として、市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理。2として、法律で定める国の行政機関等に対する本人確認情報の提供ということで、住民基本台帳カードを有料で発行し、国民に活用してもらうとして住民基本台帳カード、略称住基カードによる本人確認ができるということで、住民票の交付を受ける際、窓口での待ち時間が短縮されること、住民票の広域交付ということで、他の自治体でも住民票を取ることができるようになる。それから、恩給支給や雇用保険、不動産鑑定士や宅地建物取引主任者の登録など、住民の居住確認が必要な10省庁所管93事務に利用できるということであります。
しかしながら、この程度のことを大金をかけてやるほどすばらしい内容なのか疑問に感じてなりません。窓口の待ち時間短縮化が全国で切実な問題になっていることは余り聞きませんし、あったとしても、問題だと感じた自治体が独自に対策を考え取り組んでいけばよい問題だと思うのであります。また、住民票の広域交付を切実に望んでいる人が全国にたくさんいるとはとても考えられませんし、旅先で突然住民票がほしくなる例などはほとんどないと言えるのではないでしょうか。それから、これまで各自治体が管理していた住民の個人情報を国が取得しやすくなるということで、さまざま個人情報が国に集約されるという問題もあります。
11桁の住民票コードをつけられた住民は、千数百円を払えば、自分の住んでいる自治体から 8,000字の情報の入るICカードを交付してもらえるわけで、これが住基カードであり、住基カードについては来年の8月スタート予定となっております。強制ではないので、使うつもりのない人は交付を受けなくても構わないそうですが、1人1人の人の判断でどこまで断れるかわかりません。それぞれの自治体の取り組み方にも左右されることにもなるでしょう。住基法では、各自治体の条例で独自にさまざまな機能を住基カードに盛り込んでよいとしており、あたかも自治体の自由に任せているかのようでありますが、例えば、経済産業省では健康保険証や公的年金カード、運転免許証、パスポート、近い将来導入されるであろう納税者番号にかかわる納税関連、印鑑登録証明、図書館や駐車場など、法的施設の利用者証といった行政分野、さらには社員証や学生証などの身分証明書、キャッシュカード、定期券、プリペイドカード、会員権、病院の診察券等々、民間分野の機能に至るまでを1枚のICカードに集約するという構想も明らかにしているそうであります。
政府の説明では、住基カードのうちのさまざまな個人情報を詰め込んでいるわけではないので、住基カードをなくしたり盗まれても、それですぐに不正利用されるということはない。本人は4桁の暗証番号とセットで住基カードを使うので、他人が簡単に不正なアクセスをすることはできないということでありますが、だれもが自分の暗証番号をだれにも秘密でいられることは非常に困難であると考えられますし、暗証番号を生年月日にしたり、自宅の電話番号にしたりという人は多いと推測されます。その点を考えると、他人の暗証番号を知ることはそれほど難しいことではないことがおわかりいただけると思います。
住基ネットを端末で管理運用している数万人の自治体職員と民間業者はどうでしょうか。この方たちの中に1人でも不正使用する人がいれば大変なことになりますが、これを
100パーセント絶対に防止する仕組みは実際にはありません。残念ながら、我が志木市はこの点において個人情報が流出してしまった前科もあり、事件自体解決に至っておりません。また、ハッカーに対しても
100パーセント安全で大丈夫なシステムをつくるということは、やはり不可能であると言えると思うのであります。米国のある病院では、ハッカーによって患者の血液型が全部書きかえられてしまったとか、我が国でも2000年には、当時の科学技術庁や総務庁のホームページが改ざんされるという事件も起こっております。ですから、住基ネットを通じてアクセスできる個人情報が抹消されたり、書きかえられたりする危険を絶対に妨げる保障はないということになります。
次に、立ち上げ費用や維持費ということになりますと、総務省はネットワーク構築に約 400億円、運用費に毎年約 200億円と説明しておりますが、現実ではそんなものではないとも言われております。この見積もりには1億
2,500万人、住民票コード番号を知らせる通知の切手代約 100億円も、多くの国民が買うこととなる住基カードの代金 1,700億から 1,800億円の費用も地方自治体が独自に住基カードを活用する場合の経費も含まれていないそうであります。そうなりますと、国民の利益を基準とした費用と効果のバランスを考えれば、現在、批判の多いむだな公共事業のパターンと同じではないかと疑問の声を出されても仕方がありません。このような住基ネットでありますから、市区町村から反対や疑問の声、不安の声が出てきており、変な制度を運用すれば、住民から真っ先に抗議されるのは自治体でありますから当然のことと言えるでしょう。
昨年、日本弁護士連合会が全国 3,247の市区町村を対象にアンケート調査を行った結果、1,824通、約56パーセントの回答があり、地方自治体のこの制度に対する関心の高さを示しております。住基ネットはメリットが多いと答えた自治体は
324で、回答した自治体の約19パーセント、デメリットが多いと答えた自治体は 219もあったとのことであります。既に成立している法律について、これほど多くの自治体がはっきり否定意見を言うのは珍しいことで、市区町村は仕事や出費の増加を強いられる一方で、住民のメリットはほとんどないことに強い不信感を抱いているのであります。デメリットが大きいと答えた自治体
219のうち 153の自治体がプライバシー侵害が心配だと答えており、住基ネットの担当職員がはっきり反対と言っている自治体でも、自治体の回答としてはどちらとも言えないと答えているのもあったそうであります。
その中、完璧な対策は無理としても対策を立てている自治体もあり、杉並区では「杉並区住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例」をつくり、区民の基本的人権が侵害されるおそれがあるときは、区長が必要な調査をしたり、住基ネットの接続をストップしたりできることにしております。また、中野区では「個人情報保護条例」を改正し、個人情報のデータを結合することについて、区議会の決議を要するとしたり、個人情報保護審査会の意見を聞くなど、個人情報の保護の流通に慎重を期すようにしております。杉並区長は「自由と誇りを愛すればこそ」と、この住基ネットについて区民に次のようなメッセージを送っております。
「住民基本台帳法の改正ですべての住民に11桁の番号が付せられます。目的は区報でお知らせしているとおりですが、私は、昨年の区議会でも大きな危惧を感じると申し上げてきました。まず全国どこでも住民票がとれる程度のサービスを初期投資
400億円、毎年 200億円の税金をかけて実施する必要があるかという点です。希望者には住民カードを配るということですが、自治体からすると、カードを持っている人といない人の両方に対応しなければならなくなり不効率です。今回はスムーズに全国民に統一番号をつけることが主目的で、いずれ法改正をしてこの住民番号を納税者番号や介護保険番号など、ほかの用途にも広げようというのなら投資効果は高くなるでしょうが、これはいわゆる国民総背番号となります。1枚のカードですべて済んでしまうという便利さと同時に、他人にその番号を知られると、その人のさまざまな個人情報が番号一つで盗まれるという危険性が高まります。IT社会には個人を識別する番号が不可欠です。しかし、それは年金番号や納税者番号など、目的別に個人が複数の番号を持つべきで、1つの番号に統一することはプライバシーを守るためにも絶対に避けるべきです。プライバシーと私有財産を大切にすることは、個人の自由と誇りを守る源泉を考えるからです。法改正でも番号の他用途への拡大使用を禁じてはいます。しかし、それもいつ改正されるかわかりません。現に政府税調では納税者番号との統一化が議論されています。法は法、行政官としての区長は、その執行の義務を負うのは当然です。しかし、執行までまだ時間があるので、国会決議に基づき区民の皆さんのご理解をいただくため、私の抱いている危惧も含め、この法律の趣旨をお知らせすることにいたしました。」と区民に説明し、さらに杉並区長はIT社会とプライバシーということで、韓国を例にとってさらに次のようにも語っております。
「韓国では、南北朝鮮の対立状況を背景とする特殊事情から、1967年に全国民に12桁の住民登録番号がつけられました。しかしその後、便利さゆえにこの番号はあらゆる生活の場面での利用が進み、今や住民番号なしで韓国に暮らすことは不可能です。図書館で本を借りるにも、ビデオ店でビデオを借りるにも、ホテルに泊まるにも、この番号がなければなりません。IT社会とは、これらの図書館、ビデオ店、ホテルや病院など、すべてインターネットでつながれる社会です。つまり便利になりますが、一方でこの個人番号がわかれば、その人の読む本や好きなビデオの傾向、かかった病気や財産など、その人の過去の情報が一遍にわかってしまう技術的可能性が高まるということです。全国民に初めて11桁の番号をつける住基ネットの導入に私が危惧を抱くのは、いずれ韓国のようにこの個人番号がいろいろなものに使われていき、区民のプライバシーの脅威になりかねないと考えるからであります。住基ネットについての区民アンケートでも7割の人が疑問を抱いています。しかし、住基ネットへの不参加は違法となり、行政官としては法律を守らねばなりません。そこで、今回新たに住基プライバシー条例を独自に制定し、区としてできる最大限のプライバシー保護措置を盛り込みました。IT社会には番号が不可欠でしょう。しかし、プライバシーへの脅威を減らすためには、便利だからといって1つだけの統一個人番号を使うことは避けなければなりません。」
ということで、全く同感であり、条例制定したことに対して大変立派な行動をとられたと感心をしております。
また、現在、国会の場でも大変熱い議論が展開されております。この住民基本台帳法改正当時の小渕総理が住民基本台帳ネットワークの実施に当たり、民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが前提であることを認識するとの答弁もなされているのですが、ご承知のとおり、今国会に出されてる個人情報保護法案も、いつの間にか官がマスコミを規制する可能性があるということで問題になっており、現実として法案成立のめどがなかなか立たないという状況になっております。そうなりますと、個人情報保護の法律を整備するという前提も崩れたまま、住民基本台帳ネットワークが8月にスタートするという小渕元総理も想定しなかった異常な事態になる可能性が出てきているということで大変な問題であるということで、8月の施行をひとまず延期せよという議論も出てきております。
このような問題点の多い住基ネットでありますから、反対する会には保守の論客ともいわれておりますジャーナリストの桜井よしこさんをはじめ、賛同者には元内閣安全保障室長の佐々淳行氏や大和運輸元会長の小倉昌男氏などの名も連なっており、昨年約70名でこの住基ネットに反対する会を発足しております。
以上、述べさせていただいたように、多くの疑問の声が挙がっている住民基本台帳ネットワークですから、本市も自治体として何らかの具体的な対策や国に物を申す必要があると思うのであります。前回の定例会でも、市長は個人情報の保護について前向きな答弁をされておりますが、8月を目の前に実際どのように対策されているのか、その点を含めて3点ほどお尋ねいたします。
まず、(1)これまでにかかった経費と今後の費用負担について、住民基本台帳ネットワークにかかる職員の人的負担も含めてご答弁をお願いいたします。
次に、(2)メリットについて、一体市民や本市にとってどのようなメリットがあるのか、改めてお尋ねいたします。
最後に、(3)として、一番市民が不安と感じているであろう個人情報の保護について、その対策を具体的にどうされていくのか、お尋ねいたします。
▼市長答弁
住民基本台帳ネットワークの諸問題についての(1)について答弁申し上げます。
まず、これまでにかかった経費につきましては、ネットワークシステムに対応するための既存の住民基本台帳電算処理システムの改修やシステム機器の借り上げ及び電源工事などで
2,981万 1,600円を要しております。
次に、8月の法施行日までの経費についてでありますが、機器類の保守や借り上げ及び15年8月に予定されている住民票の写しの広域交付や住民基本台帳カード整備に伴うものなど、8月を挟んでのシステム改修などの業務があるため8月までの経費としては算出できませんが、14年度全体で約
2,400円の経費を予定しているところであります。
また、ネットワーク完成後の運用維持管理につきましては、機器類の保守、借り上げ料などで毎年 1,000万円強のランニングコストを予定するとともに、仕様変更などに伴うシステム改修費用なども見込まれます。
なお、ネットワークに伴う人的負担についてでありますが、現在、事前準備作業を職員が通常業務と並行して行っておりますが、8月の法施行日前後には相当の人的負担が伴うものと思われます。昨年11月の埼玉県からの通知によりますと、午前9時から午後5時までの全国共通運用時間後におけるデータのバックアップやエラーチェックについても相当の作業時間を要する旨の通知を受けているところであります。
次に、(2)のメリットについてでありますが、総務省ではこのネットワークシステムが構築されますと、法で定められた国の機関等への本人確認情報として氏名、生年月日、性別、住所、住民票コードなどが提供されることにより、今まで市民が恩給や年金などの支給や各種資格申請時に必要としていた住民票の写しが不要になることや、お話もありましたように、全国どこの市町村でも住民票の写しの交付が受けられること、また、希望する市民の請求に基づき、市長が発行する住民基本台帳カードにより転入転出時の手続が簡略化されるなどのメリットが強調されております。
しかしながら、お話にもありましたようにこのメリットが当市や市民にとって必要なメリットに結びつくかどうか、高額にわたる経費や人件費が増加する一方、最も大切な私たちの基本的人権にかかわる自由を阻害するおそれも考えられることから、私自身一定の疑問を持っており、この導入につきましては国民的同意を得るなど、慎重な対応を図るべきではないかと考えております。
次に、(2)の個人情報への対策についてでありますが、本市におきましてもネットワークシステム構築により、志木市情報公開個人情報保護審議会へ諮問し、審議会の了承をいただいているところであります。ご質問の杉並区の住民基本台帳に関する個人情報の保護に関する条例につきましては、杉並区が区民のプライバシーの保護を目的として独自に制定したものと承知しております。総務省ではこれらを踏まえ、ネットワークシステムが全国規模であるため、データの漏えい防止などを図るため、6月中に仮称住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティー基準を通知すると伺っております。
先ほども申し上げましたとおり、本市においてはネットワークシステムの構築に当たり、審議会のご了承をいただいているところでありますが、個人情報保護法案が未確定の状況にありますし、自由が保障される世界は私自身の基本的政治理念でもありますし、このネットワークにつきましては、さらに賛否の意見も数多くあるところから、個人情報保護の対策については早急に再検証を行い、状況によっては条例設置も視野に入れ、プライバシーの保護に万全を期してまいりたいと考えております。
●鈴木正人・再質問
まず住民基本台帳ネットワークの諸問題について、市長に本当にご理解あるご答弁をいただきましてありがとうございます。ええとですね、もう一回(2)の部分になるんですが、確認になりますけれども、住民にとってのメリットはさっきの住民票が広域でとれる等の話なんですが、結局のところ、この志木市の行政にとってのメリットというのはこの間あったのかどうなのか、今後もこれがなければ志木市はやっていけないということがあるのか、何か不自由があるのか、その点、確認のためお伺いしたいと思います。
▼市長・再答弁
ある程度事務の効率化ということはあると思う。しかし、それはさっき言ったように、例えばその個人の自由が侵害をされるおそれが全くないとか、あるいは、高額な経費がかからない対費用効果もあると思うんです。そういうことを考えますと、私は、これらの導入については今のところまだいかがなものか、こういうふうに思っています。
ただ法的には断るわけにはいきませんが、ただあえてやった場合、例えばここを超えてそういう場合どうかということになりますと、住民基本台帳の第9条に、住民票の記載等のための市町村長間の通知、例えば転入通知等があるんですが、これがもし15年8月にしたと、そういうことになりますと、うちがやらないと、これは法的にはちょっと不可能ですが、その場合にはネットワークシステムじゃできませんので、転出地市町村に対して郵送等で連絡をする。ですから、市としては不自由になります。その不自由が果たしてそれだけの高額の経費、プライバシーの問題、それを考えたらいかがなものか、そういうことで先ほど答弁を申し上げたところです。
●鈴木正人・要望
ありがとうございます。今、お聞きしたように、かなりこれは自治体にとっては重荷を課せられたというか、余計な仕事を国が回してくれたものだなというふうに思うのでありますけれども、本当にやはり問題だと思うのは、先ほども言いましたけれども、当時賛成した反対したにかかわらず、住基法の改正のときに小渕総理が「これはもう個人情報保護に関する法整備も含めた部分を整備すると、それが前提である」というふうにこれ国会で答弁しているにもかかわらず、今国会で「個人情報保護法案が通らなかったらどうするんだ」という質問に関して、福田官房長官が「それ自体は同法の附則第1条第1項の規定によって云々」というところで、「法律上個人情報保護法の成立が住民基本台帳ネットワークシステム施行の条件とはされておりません」という非常にいい加減なことをやっておりまして、8月5日に本当にこれが法律という中で施行されて、個人情報保護法案が今国会問題があるということで通らないと。そうすると、個人情報保護に関して、本当にきちっとした対応をしない中でこれがスタートしてしまうと、こうなりますと、本当にかなりの問題になると思いますので、先ほど市長の方もご理解いただいたと思っておりますので、場合によってはやはり条例制定の必要性があるのではないかなと、このように思っておりますので、8月の状況を見てみないとわからないんですが、そうなった場合、9月議会までちょっと空白の時間ありますけれども、できることであれば、条例制定とも検討していただきたいと、このように要望しておきます。